昼間仕事に行こうと、マンションのエレベーターに乗り込もうとすると、そこには先客が。
上の階に配達があったらしい宅急便のおじちゃん。
「こんにちは。」
と言った後、私が背負っている楽器を見て
「それ?ヴァイオリン?」
「そうです。」
「じゃああなたミュージシャンなの?」
「そう。。ですね。」
以下お(おじちゃん)、ゆ(私)。
お「私もね、昔は音大を目指したのよ。」
ゆ「え~っ、そうなんですか(もっのすごく意外)?楽器は何を?」
お「作曲。でもね、受験で挫折しちゃったけどね。今でも趣味で曲作ったりしてるよ。」
ゆ「へぇー。」
そのころにはエレベーターを降り、出口に向かっていたけど(ほんの2、3メートル)、おじちゃんの話は続く。
お「この前、ディスカバリーチャンネルで
アイザックスターンがモーツァルトについて語っていたけどね、アイツはもうモーツァルトと友達なわけよ(おじちゃんもスターンをアイツ呼ばわりしてるけど)。
モーツァルトがその曲を書いたとき、どこにいてどんな女と付き合っててとか全部知っているのよ。そういう背景があるからここはこう弾かなくっちゃいけないって音を出すわけよ(ヴァイオリンを弾くジェスチャー)。やっぱりアイツぐらいになると考え方がぜんぜん凡人と違うんだよな。やっぱりすごいねー。」
その後も、おじちゃんのはなしは続く。
「ボクなんか途中で音楽をあきらめちゃった人間だからかえって執着っていうか未練があるからね、そういう音楽番組とかよく見てるの。作曲もやってるけど(手はピアノを弾いている)、何せ、もう指が動かなくなっちゃってさぁ。でも今はパソコンに入力すると音がでるからねー、そうやって作ってるのよ。あ、今度弦楽合奏の譜面あげるよ、それじゃぁ、どーもねー。」
ってな感じでエレベーターに乗ってから配達車までのすごく短い距離なんだけど、時に立ち止まり、あるときは自分がヴァイオリニストに、あるときはピアニストになりきりながら時間をかけてたーっぷり語り、楽しそうに手を振って配達車に乗り込んだ。
話を聞いていると、確かに音楽に詳しいし面白い、けど。私、仕事にいかねば。ま、時間に余裕があったから問題はなかったけどね。
急いでいるときには振り切るのが大変そうだ。
そして、おじちゃんは気がついていないとおもうが、私はエレベーターで「こんにちは!」と明るく挨拶されたときから、このおじちゃんにピン!ときていた。
このおじちゃん、以前うちに配達に来たときに
私の苗字「I○」に反応していた歴史好きのおじちゃんだと。
おじちゃんの守備範囲は歴史だけにとどまらず、音楽にまでとは。
いつの日か、「I○」という苗字の女とヴァイオリンを背負っている女が同一人物だとわかったとき、おじちゃんの話は2倍に長くなるのだろうか…。
あ、こうやって文章にしちゃうと、自分の趣味の話を押し付ける強引なおじちゃんに思えちゃうかもしれないけど、実際はそんなことはないのよ。だってすっごく楽しそうに話すんだもの。
ただし、こちらに時間があるときに限る、だわね。